企業の環境問題の取り組みを見ると、使用したエネルギーを二酸化炭素の排出量で示しているケースを見かけます。二酸化炭素の排出量が少ない方が省エネに貢献していることになり、それが企業の環境保護活動の一環として認められるのです。

しかし、個人レベルの省エネではそのような算出はできません。

例えば、炊飯器を1回使った場合の電力量の計算、そして二酸化炭素への換算などは素人のできる計算ではないからです。個人宅のエネルギー管理などは不可能とも思えるでしょう。

ところが、今ではその「不可能」が「可能」になっています。それが今回取り上げる「HEMS」です。

ここでは、HEMSとはどのようなシステムであるかから始めて、設置の方法や導入までを解説します。

HEMSについて

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まずはHEMSについてとりあげましょう。

電気関係の設備は分かりにくいものが多いのですが、どのようなものなのでしょうか。

HEMSとは

HEMSとは「Home Energy Management system」(ホームエネルギーマネジメントシステム)の頭文字を取った略語で、パーソナルユースでのエネルギー管理が可能なシステムです。

機能としては、その住宅の電力使用量を時間単位で記録すること。それによって、使った電力が見えて来ます。

例えば、キッチンでは炊飯器をはじめ、エアコンやIH調理器などの多くの電気機器があります。これらの装置をフル回転させると、どれくらいのエネルギーを使ったかは分かりません。

しかし、HEMSを使えば使用したエネルギー量が時間単位で分かります。

これによってユーザーは自宅の電力使用量を時系列的に見えるようになり、自宅の省エネに活かせるのです。

HEMSで可能となること

ではHEMSで可能になることを掘り下げて解説します。

エネルギーの使用量が分かる

前にも述べたように、HEMSの基本的な機能は住宅の電力使用量を時間単位で記録することです。これにより、1日の電力使用量のみならず、午前中の使用量、昼時の使用量…のように、1日を区切りながら使用エネルギーのチェックが可能となります。

このエネルギー使用のフィードバックは非常に重要です。というのも、省エネに非常に役立つからです。

例えば、昼時の電力の使用量が多ければ「エアコンの使用量が多い」と推定されます。その場合は「直射日光を遮る手段があれば電力の使用量が抑えられる」という考えに帰結することでしょう。そして、例えばシェードを追加するなどして省エネに役立てられるのです。

家電製品の自動制御ができる

HEMSを導入すると家電製品の自動制御ができます。

この機能を使えば節電が可能です。

例えば、電力の契約には夜間が安くなるものがあります。午後8時~翌午前8時の時間帯は安くなる、といった契約です。

この様な契約の場合には、昼に行う作業を夜に行えば、それだけ電気料金が安くなります。洗濯機を午前9時に使うよりも、午前7時に使った方が安価で済むのです。

しかし、人が時間の制御をする場合には、その時間に作業に当たっていなければいけません。

その点、HEMSの自動制御を使えば洗濯機の使用時間が自動となります。電気の安い時間に使えば節電になるのです。

外出先から家の機器を操作ができる

HEMSを使えば外出先から家電製品を操作できます。家の人の外出が多い忙しい世帯にとっては、非常に便利な機能と言えるでしょう。

例えば、風呂場にお湯を入れる時間帯、その時に仕事に行っていた場合には、一般的にはお湯を入れることができません。あくまでも自宅に帰宅して浴室を操作する必要があります。

しかし、HEMSを使えば浴室の操作が外出先でも可能。帰宅時間に合わせてお湯を入れることもできるのです。

このように、HEMSを利用すれば外出先から家電製品の操作が可能となります。住宅設備をより効率的に使えるのです。

太陽光発電の管理も可能

太陽光発電は省エネの有効打として期待されるシステム。新築住宅で設置することに決めた自治体もあるほどです。実際、太陽光パネルには補助金が充実しており、非常に設置しやすい環境となっています。

ところで、HEMSでは太陽光パネルの管理も可能です。

例えば、太陽光パネルで昼間の内に発電して夜間に使用することもできるのです。また、作り過ぎた電気は電力会社に売ることもできます。


HEMSの課題

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今まで述べて来たように、HEMSによって省エネ化が進むと考えられます。

しかし、それは簡単にできることではありません。やはり課題が存在し、それをクリアしなければいけないのです。

それでは、HEMSはどのような課題を抱えているのでしょうか。

ここでは、HEMSの持つ課題について、代表的なものを取り上げて解説します。

コストの問題

HEMSには費用が発生します。

発生する費用はHEMS関連の機器以外にも家電製品の購入費用もあります。これはHEMSの指令を受けて対応するためです。当然ながら、家電製品の購入にはそれなりの費用が必要となります。エアコン、テレビ、IH調理器具…と考えるならば、費用が膨らむのは明白です。

ちなみに、「HEMSは省エネに対しては有効であるが、購入機器を生活費に充てた方が経済的にメリットはある」と判断する人もいると思われます。

HEMS対応機器の問題

HEMSは対応機器が無ければ動かすことはできません。いくらHEMS本体が指示を出したとしても、指示を受ける設備が指示を認識していなければ、動くことができないのです。

浴室のケースで言えば、外出先からHEMSにお湯を入れるように指示を出し、HEMSがその指示を認識して浴室に指示を出そうとしても、浴室がその指示を認識できなければ動けないのです。

ちなみに、住宅設備のライフサイクルは短くはありません。一般には10年程度とも言われますが、平気で20年を超えて使っている例もあります。そのため、HEMS対応機器に買い替えるのは10後…といった現実もあり得るのです。

認知度の問題

HEMSの課題の1つが「認知度の問題」です。

HEMSはまだ一般への浸透度は低く、多くの人は知りません。当然ながら、知識の浸透度が低ければ使う人は現れず、システムが空振りのような状況に陥ってしまいます。

また、電気のシステムや機器などは分かりにくいものが少なくありません。例えば、給湯器の種類と商品体系は意外に複雑です。種類がいくつもあり、それによって省エネ対応かどうかが違う…といったことも、理解されていないケースも多いことでしょう。そのため、認知度の浸透はますます遅くなるのです。


HEMSに必要な機器

ここで、HEMSに必要な機器を取り上げてみましょう。

  • HEMS本体

  • HEMS対応の分電盤

  • HEMS対応機器

  • スマートフォン

コントロールと制御がHEMS本体とHEMS対応の分電盤の役割。HEMS対応機器が家電製品。スマートフォンが監視およびコントロール機器となります。

具体例としては、スマートフォンで家庭の電力の情報を察知し、その情報を元にスマートフォンからHEMSに指示を出す。その指示によって洗濯機などのHEMS対応機器を可動させる…といったものです。

ただし、前述のように、HEMSに対応した機器が少ない現実もあります。そして、家電製品のライフサイクルは長いため、置き換わるには時間が必要と考えられます。


まとめ

HEMSについて取り上げました。前述のように、認知度がまだまだ浅いシステムなので、知らなかった人も多いことと思いますが、この記事で知識が増えたことと思います。

また、HEMSについて知ることによって電力の削減、更には省エネへの挑戦に興味を持った方も多いことでしょう。

ともかくとして、HEMSは省エネ推進への有効打になります。コストは発生しますが、削減される光熱費を考えるとそれほど高くないとの判断もあります。ぜひとも検討してはいかがでしょうか。